娘は目にいっぱいの涙をためて、もうこらえきれなくなったのか、
嗚咽を繰り返していました。


休日に家族そろってのお出かけ、立ち寄ったデパートの屋上、ペット売場。

大きくおおきく、小さな口を開けて、餌をねだるそのしぐさ、鳴き声
数羽の生まれて間もない文鳥のヒナ。

娘は、売場に並べられたいくつもの飼育箱のなか、
文鳥のヒナの入れられている、その前から離れようとしません。

その中の1羽が、新しい家族になりました。
さみしいのか、細い、でも、しっかりと、とどく声でなきます。
その鳴き声から、名前はピピ。
娘は自分が、その小さな文鳥の母親になったように感じたのでしょうか、
一生懸命、世話をするのです。

朝はいつもより1時間は早く起き、
学校が終わると、息を切らせてピピの待つ家に帰ってきます。
生後間もないヒナですから、エサやりが一苦労です。
赤色のエサ入れに、”ひえ”を少しいれ、ポットからお湯を注いで、約10分。
お湯を切り、栄養剤を混ぜ、スポイド状の道具で、エサを与えていきます。
一羽しかいないのに、われ先にと、エサをねだります。
エサ袋をパンパンにふくらませ、満足すると眠ります。
人間の赤ちゃんと同じです

これが2時間毎。

8歳の娘がこれを継続しておこなっていくのは大変です。
でも、あの子は、私がなにも言わなくても、
自分の”親としての役割”を、精一杯の愛情でもってこなしていました。
エサをやり終えると、その間に、ピピのことを気にしながらも、宿題や家の手伝い等をこなします。
娘にとって充実した、そしてかけがえのない日々だったに違いありません。

数日後......

薄紅色の鮮やかなくちばしの色は、薄れてきました。
まんまるの愛くるしい目は、閉じていることが多くなりました。
そして、あんなに食欲があったのに、何も食べなくなってしまいました.......

娘は、寝るときもピピの入れられている小さなプラケースを離しません。

たまりかねて、妻が、
「明日、ピピと出合ったお店に行こう、そして、みてもらおう。」

近所に獣医さんはなく、ピピのいたデパートの屋上に電話をしたら、みてもらえるとのこと。
娘はそれで安心したのか、その日はぐっすりとねむりました。
娘が学校に行っている間に私と妻は2人で、そこへ行きました。

妻 「元気がなくなったんです」

店員 「文鳥のヒナは難しいですからねぇ.......いつ頃からですか?」

妻 「2日ほど前からです、なにか良い薬や治療法はないですか?」

店員 「しばらく、お預かりしてよろしいですか?」

妻 「なにか治療をしてもらえるのですか?」

店員 「いえ.....犬や猫の場合は点滴をするのですか、文鳥のヒナの場合はなにもしようがありません....」

妻 「じゃ、預かってもらっている間、どうするのですか」

店員 「元気になったら、ご連絡いたします、もし、だめなら.......
たぶんここまで弱っていると難しいと思います、本当に申し訳ございませんでした。
明日にでも文鳥のヒナが入荷しますので、お取りかえさせていただきます。」

妻 「................................」

妻は、涙をうかべ、私にいいました。
「そんなんできると思う?」
できるわけありません。

ピピはピピなのです。

新しいヒナに取りかえてもらえば、娘は何て思うでしょう.....
「あたらしいヒナにかえてきたよ!よかったなぁ〜......」で納得するでしょうか........

死期は私の目からみても間近です。
ピピが死んでしまうという現実は、新しいヒナに交換してもらえば、遠ざけることもできます。

でも、交換はしませんでした、できませんでした。

翌日、もう二度と、鳴き声はとどかなくなりました。

鳥なのに、一度も空を飛ぶことなく、小さなプラケースの中で、体を横たえていました。
娘は、ピピのより小さくなった体を、その小さな手につつみこんで、
庭のかたすみにほった穴に、そっと、埋めていました。







---わかれ---